第一話

2019年01月22日

まるで曇りガラスを拭くように、さっと瞬きをする。
あそこはなんて遠い世界だろう。
震える自分の指先を他人のものの様に感じながら、目の前のモニターにそっと手を伸ばす。自分の手なのにとても重い。
硬く冷たいモニターに音も無く触れたが、しかし、指先の感覚は酷く曖昧だった。

ふと次の瞬間、自分の右手はデスクの上に、左手は頬杖をついていることに気付く。
ああ。自分と自分の間に、半音階分のズレ。 モニターに触れるどころか、手を伸ばしてすらいなかったのである。

モニターに写る"彼ら"から目を離せないまま、随分と長い間、スチール製の無愛想な椅子に腰を下ろしたままだった。何か考えようとしても、何も考えられない。ただなんとなく、悲しいような淋しいような、薄い膜のような孤独感だけ。
その孤独感は、ガラスをじとじとと曇らせた。...

第二話

2019年01月21日

小鳥の目に、彼らの世界の全てが映る。
これが彼らの小さな世界、全て、全てだ。

真っ白なレザーソファーに、"彼ら"である二人は座っていた。フローリングの白木の床には、ゲーム機が無造作に置かれている。少し古いタイプのゲーム機から、黒いコードがうねうねと伸びていた。

そこは呆れるほど殺風景な部屋だった。真四角に近い長方形で、壁も天井も白く、全体がぼうっと発光しているように見える。
まるでケーキ箱の中である。
窓の無いその部屋に、外の光が入ってくることはなく、季節どころか昼夜の存在すら感じられない。部屋の照明は点いておらず、テレビ画面からの白い光が、ゆらゆらと室内を照らしていた。

そのテレビ...

第三話

2019年01月20日

物体に当たった光が反射し、角膜を通して眼に入る。
眼に映った情報は、脳を、意識を、感情を、ゆっくりと支配していく。
何かを嘆いているかのような小鳥の目には、小さな世界の全容を優しく丁寧に包み込むかのように"孤独感"という膜が張る。その膜は、次第にじとじととガラスを曇らせ、小鳥はそれを拭い去るように瞬きをした。
そしてまた、小さな世界が小鳥の目に映り込む。そう。この話何度もしたね。その繰り返しなんだ。
拭いたばかりのガラス越しに、小鳥は数時間前の出来事を回想していた。

被験者のアルバイトに応募したのは、とにかく楽そうだったから。
喫煙者で20代の男性なら誰でも応募でき、受かってもすることは毎日の採血だけ。
...

第四話

2019年01月19日

それから時間は、本当にあっという間に過ぎた。
レシートの裏に簡易的にカレンダーを書き、バツ印で消していく。
その赤い印は、もう半分まできていた。
足元に積み上げられた小学生用の昆虫図鑑を眺めながら、タバコの煙を吸っては吐く。
それが金魚の毎日だった。
昆虫図鑑に飽きれば、植物図鑑になり、それにも飽きれば、宇宙、鳥、鉱物、海洋生物...そしてまた昆虫図鑑に戻るだけのことである。
シャムは、といえば毎日のほとんどがテレビゲームだった。
その同じ様な日常の繰り返しを、私はただ眺めていた。
なんてくだらない。
なんて馬鹿馬鹿しいのだろう。
白状しよう。いつの間にか私は、それが楽しくて仕方が無くなった。

マイク付のカメラはリビングの天井付近に2台、ソファーの正面にあるテレビの上に1台。
同様に小型で高性能だ。
...

第五話

2019年01月18日

彼ら二人は、大抵の時間狭いソファーで密接していた。
それはまるで、母親の胎内で生まれるのを待っている、双生児の様だった。
姿形は随分と似ていないはずなのに、なぜか私はそう思った。
まだ二人になる前の、一人の二人。
丁度良い言葉はないけれど、言い表すとしたら"憧れ"や"願望"のようなもの。
私は私の中にある憧れを、なんの躊躇いもなく彼らに投影していった。
二人にならないでくれ。ずっとそうやって、二人に別れず一人でいてくれとさえ思った。
そんな風に好き勝手に理想を投影することに、初めは躊躇いもしたはずだ。
けれど、いつからか、憧れや願望にも似たその感情が、堰を切ったようにあふれ出てきたのだ。
まるで玩具である。
...

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