第二話

小鳥の目に、彼らの世界の全てが映る。
これが彼らの小さな世界、全て、全てだ。
真っ白なレザーソファーに、"彼ら"である二人は座っていた。フローリングの白木の床には、ゲーム機が無造作に置かれている。少し古いタイプのゲーム機から、黒いコードがうねうねと伸びていた。
そこは呆れるほど殺風景な部屋だった。真四角に近い長方形で、壁も天井も白く、全体がぼうっと発光しているように見える。
まるでケーキ箱の中である。
窓の無いその部屋に、外の光が入ってくることはなく、季節どころか昼夜の存在すら感じられない。部屋の照明は点いておらず、テレビ画面からの白い光が、ゆらゆらと室内を照らしていた。
そのテレビ 画面には、ペトリ皿が映っていた。理科の実験で使うような、あのガラスの小皿である。そのペトリ皿には、おそらく湿らせてあるであろう綿が乗っている。ただそれだけの画面だった。
二人でゆったりとできるほど広くはないそのソファーに、二人はぴったりと収まっていた。
一人は黒ぶちの眼鏡をかけた黒髪の男だ。シワの無い白いシャツ、黒のパンツから裸足のつま先が覗く。伸びすぎた前髪が顔に陰鬱な影を作り、眼鏡越しの冷たい目が神経質さを強調している。大して特徴のない男だったが、ピリピリとした独特の雰囲気を漂わせていた。
名前を"金魚"という。
もう一人は、タオルケットに包まって、金魚の肩にもたれて眠っていた。わざわざ金魚を"黒髪の"と描写するのに義務感を覚えるほど、不思議な色の髪をしていた。緩やかな眠りによって閉じられたその瞳は、黒ではなく碧だ、と聞いている。
所謂ミュータント、突然変異なのだそうだ。
"所謂ミュータント"と、彼に関する説明はただそれだけだった。
彼の名前は"シャム"。
さあ、これで君の目にも、彼らの世界の全てが映る。
これが彼らの小さな世界、全て、全てだ。
金魚の指には、煙草が一本挟まっていた。
指と指の間から、白い煙が一筋の糸のように、ゆらゆらと立ち昇っている。
短くなっていく煙草が指まで達すれば、指先までもが糸煙になって消えてしまいそうだった。
ぼこぼこと関節の目立つ神経質そうな細い指には、煙草をそこに安定させておくという他に、仕事は与えられていない。
彼は煙草を口にもっていこうとはせず、物質がゆっくりと気化し灰になっていく様を、ただじっと見ていた。
さっきまで固体として存在していた物質が、いつのまにかするすると消え、空気と同化してゆく不思議。
灰が、床に落ちる。
月並みな表現かもしれないが、その空間だけ時間が止まってしまっているようだった。
短くなっていく煙草だけが、静かに時間の存在を主張していた。